2018年4月4日水曜日

創作】アリオーソ「悪魔の謝肉祭」

サルベージできた二作のうち一作




 煙たがられることの多いフロステンだが、決して底意地の悪い教師ではない……むしろ、かなり性格のいい部類に入るだろう。
 少しばかり、研究のこととなると他人を省みなくなるだけで。
 アリオーソほど酷い目に遭う例も稀だが、知らず知らずの内にフロステンの実験台になって、トラウマが出来たという生徒は少ない。
 しかし、それ以外は……授業のとき、補習のとき、彼は親切だった。フロステンは出来のいい生徒と出来の悪い生徒を比べたり、贔屓したりしない。生徒の優劣など、フロステンにとって非常にどうでもいいからだ。
 また、やはり彼は美しい。見ている分には美しく、飛び掛られると悲鳴をあげたくなる蛾のような美しさであったとしても。あれだけ綺麗なら許される、と言う人間はいる。言わない人間の方が多いが。
 して、「あれだけ云々」パート2に当たる生徒が、薬品染みの多い白衣を翻すフロステンの背を熱っぽく見つめていた。
「あの、アリ先輩どったん」
 ワンコロ(セッタ)である。
 かっと顔を赤らめ、「なんでも……」と目をそらす。
 これを他の男がやったなら殺人犯を見る目にでもなったろうが、残念ながらアリオーソだったので、セッタも思わず顔を赤らめる。
「あの、そんなとこでそんな顔してウロウロしてると……」
「なんだよ」
「知らないッスよ? 惚れ薬飲まされても」
「そんなのあるのか」
 目から鱗ボンバー。
 後輩の肩を掴み、遠心力で脳みそぶっとぶ勢いでシャッフル!
「お前、錬金術科だろ! ひとつ作って!!」
「あばばばばば、ど、どうしっ、たのっばっ」
 どうしたのと聞かれてぱっと手を離し、身を抱えるように己の腕を掴む。派手にすっ転んだ後輩は一ミリも見なかった。
 打った肩を抑えつつ起き上がり、胡坐のまま先輩を見上げるセッタ。
 それは何というか……控えめに見ても、フラグの立った状態だった。このままエンディングに突入すれば、伝説の木下さんのところで召喚術をおっぱじめそうな雰囲気である。
「アリ先輩……ひょっとして、誰かのこと好きになった?」
 指摘されると余計に顔を赤くして、辛そうな顔をする。
「こんなこと、初めてで。相手……男の人なんだ」
 表情からして何となく分かっておりました、先輩。
「おかしいだろ」
「んー、いやー。たぶん、五割の確率で可能性あると思うけど」
 男女不問で懸想される割合で言うと、フロステンよりアリオーソの方が多い。
 フロステンは確かに美しい、だが必ず「キモい」が付随する。
 この前など、バクテリアぶちまけ「メンゴメンゴ」で済ました。
 今とて、得体の知れない緑色のグチャニチャした液体を、歪んだ笑顔で素手で鷲掴みしている。何ていうか人間じゃない、あれ。
 そう。許容範囲外。いくら美しくてもあれは無理。
「けど、今までちょっかい出して来た奴らと、その人が同じとは限らないだろ?」
「ま、そうだね。そこらへん、潔癖な人けっこう多いし」
「フロステン先生は———」
「ふろす!?」
 突然セッタが大声を上げたので、周囲の目が向いた。が、すかさずアリオーソが殴り倒したため、いつものことかと注意がそれる。
 アリオーソは真っ赤になって唇を震わせながら、セッタを睨みつけた。
「お前……ふ、ふろす先生に気づかれたら、どうしてくれるんだよ!」
「いや、え……っと、ま、まじ?」
「………!!」
 その白い肌を染め、小さく頷かれてセッタは目の前が暗くなるのを感じた。いやはや、凄まじいものの片鱗を見せつけられた気分だ。
 殺人犯を見るかのように、おそるおそる先輩を見上げ……
「なんで、って聞いてもいい?」
「どうしてかなんて、分からない。ただ、先生を見てると苦しくて……」
「病気だよ、先輩。それは単なる病気。治療院いこ?」
「恥ずかしくなって……! すごくその、好き、なんだ」
 やっぱり病気だ。
 フロステンに死ぬより酷い目に遭わされて、それを助けたのは他ならぬセッタである。その後、アリオーソはフロステンに会うたびに体が竦んでしまい、思うように動けないほどのトラウマを負ってしまった。
 幸いアリオーソは錬金術科を選択していないこともあり——フロステンの失態でもあるので、普通科で錬金術をやるときは、他の教授がアリオーソのクラスを担当する。
 もしアリオーソの親が本気になって、フロステンを社会的に抹消しても文句を言えないほどのことを、フロステンはやらかしたのだ。未だにクロエにいること自体、間違っている。
 それらを踏まえ、アリオーソの告白を考えると。
 つまり先輩は、トラウマを乗り越えようとしているのだと思う。精神的に深い傷を負った人が、それを癒そうとしてトラウマに立ち向かうことは、よくある。
 心の弱い人は傷から目を背けるが、先輩は強い人だ。早々にフロステン如き、打破したい。そう考えて、フロステンを「好き」になったのだろう。
 究極にして、手っ取り早い方法である。どきどきするのは、怖いのではなく恋だから。吊橋効果を逆手にとったよーな治療法である。
 セッタは、先輩のしたいようにさせてあげたいと思うと同時に、心配になった。もし相手が常人ならば、こんな治療法も有り得ると思う。が、フロステン。惚れられた強みにつけこんで、再び先輩にトラウマを植え付けるかもしれない。
「やったあ!」
 うだうだ考えるうちに、フロステンが両手を挙げて万歳した。
「成功したー!!!!!」
 ……さきほどの緑色のクリーチャーが完成したらしい。
 喜びのあまり、フロステンは髪を振り乱し、東洋のアワダンスを踊り狂う。情熱的にして破滅的なステップ。周囲の生徒、ドン引き。
 ただ一人アリオーソだけが、
「かっこいい……」

 重症だ。


***


 そんな訳でカルロに相談しに来た。
「絶対ふつーじゃないと思うんですよ」
「ふつーじゃないよねー。相手がフロステンだってところも」

 "も"と言うか、そこが一番おかしい。

「一番へんなのは、アリ。あの子がルーシー先輩以外にそんな情熱的な反応するなんて、病気か本当に恋しちゃってるのどっちかだねー」
「絶対なんかの勘違いだと思うんだけど……」
「確かに、ちょっと急すぎるね。他の友達に最近のアリのこと聞いて回ろうか」
 カルロがワークシートを揃えて立ち上がると。
『話は聞かせて貰った!!』
 どこからともなく声がするもので、カルロとセッタは周囲を見回すが、声の主はない。
 そうこうする内に、目の前の机からにゅっと首が飛び出した。
「ディ、ディエゴ先輩!?」
 の、ご機嫌な生首である。
「よー、ディオぽん。神秘造詣?」
『そそー。今、ボスたちとちっと出かけてんだけどね。ねー、ボス』
 ディエゴが右を向くと、今度はグレゴリオの生首が生える。
 自分が生首で放送されていることに気づかぬ様子で、不審そうな顔だ。
『ちっと盗聴器から耳寄り情報拾ったんスよ』
 とは、グレゴリオへの説明らしいが———この男、面白情報を拾うために盗聴器なんぞ仕掛けてやがったらしい。
『なんでも、リシェルがフロステンに懸想! だそうスよ! これは是非帰って観察しなくちゃあ!』
『ふん!!』
 グレゴリオは盛大に鼻を鳴らした。生首のままで。
『下らん。リシェルが誰に発情しようが興味はない』
「発情て」
 まだそこまで至ってないと思うから。
『あれ、ボスどこに行くんスか?』
 カルロたちからは、あちらがどういう状況であるか見えない。ただ生首が二つ並んでいるだけだ。
 ディエゴの口ぶりからいくと、グレゴリオは何処かへ去ろうとしているようだ。
『……帰る。課題があるのを思い出した。べっ、べつにリシェルが気になるとかそういうんじゃないからな!! 勘違いするなよ!!』
「なんつー分かりやすい……」
 彼、あんなんで魔導士になれるのだろうか。実力からして、狐狸妖怪はびこる何処ぞの宮廷へ召し上げられるだろうに。
『と、いうわけでオレらも今からダッシュで帰るんで! 一部始終よろしくねん』
 気色の悪い投げキッスひとつ、ディエゴは映像通信を切った。
「いいの? カルロ先輩、ソーサリー嫌いでしょ」
「んー。でも、アリは気になるし。神秘造詣科がいれば心強いしねー」
「ダニエル先輩じゃダメなの?」
「ダニーを呼ぶと、エドモンも来るでしょ? 本人に了承のない盗み見なんて、エドモンが許すと思う?」
 二時間に及ぶ説教タイムが始まると思う。
 レイヴンにも個性がある。アリオーソのように粛清して終わりの者もいれば、エドモンのように説教タイムがある者もいる。ダニエルはもっと酷い。粛清した後、神秘造詣の技術を活かして女体化させたり(顔はゴツいまま)、デブにしたり、宇宙人にして遊ぶ。
 かくいうカルロはぶちのめして気絶した相手の衣類を弄るのが好きだ。たとえばシャツの首に頭をおしこめて、首を縫ってしまう。裾も脱げないように縫ってしまう。ついでにズボンの股も縫う。起きた時、パニックに陥ってじたばたする姿を眺めるのは風流なものだ。ああいうのを東洋ではワビサビと呼ぶのだろう。
「ワビサビって、動物だっけ?」
「あー、カンガルーの親戚じゃなかったかな」
 学術系の魔導士二人で馬鹿に花を咲かせていると、ユリアスが顔を出した。
「アリがヘンなのだが……」
 彼も気づいたらしい。
「おっす!! 途中で何人かぶっとばしながら走ってきたよ!!」
 ディエゴが飛び込んできた。「ぶっとばしながら」と告白しながら、入り口にいた何人かをぶっとばし、机に飛び乗った。人身事故いくない。
 役者が揃ったところで、中継開始。あまり野次馬が増えても困るので、教室はしめきっておいた。三大チームの幹部が睨めば、教師ですら入室を躊躇う。
 黒板スクリーンに映し出された映像では、錬金術準備室にて、フロステンとアリオーソが二人きりでいた。
「ずいぶん早くいい雰囲気? だねー」
 狂喜乱舞しながら薬品を詰めているフロステンと、それを見守るアリオーソを指して言えるかは謎である。
『ひゃーっほっほ、ひーほっほっほ!! あー嬉しいなー嬉しいなー嬉しすぎて脳漿飛び散りそう』
『よかったね、先生』
 心の底から、自分のことのように喜ぶアリオーソも、薬品詰めを手伝っている。
 ふと、瓶をとる手が重なった。
 アリオーソの頬が染まり、驚いて手を引っ込める。
 フロステンは意外にも鈍い訳ではないらしく、その反応に目を瞬いた。
『アリくん、せんせのこと嫌いじゃなかったっけ?』
『嫌いなんて、どうして……』
『だってセンセ、アリくんにヒドイことしちゃったでしょ』
 一応、あれを酷いことだったと認識してはいるらしい。
『あの時は怖かった……けど、嫌いなんかじゃない』
 泣きそうなほど必死な顔に、フロステンはしきりに頷く。
『そっかぁ。アリくん、センセのこと好きなんだ』
『えっ、な、どっ、して!』
『センセ、そゆの言われ慣れてるから』
 まあ、それはそうだろう。あの顔なら。若い頃から(フロス現在三十四)色々あったに違いない。
『そっかぁ、そっか……んー。アリくんはセンセとどうしたい?』
『どう……って?』
『付き合ってみたいとか。一晩のあばんちゅーる? とか』
 具体的である。というか、生徒と間違いがあったら懲戒免職ものだと思わないのだろうか。それ以前に年齢差が……アリオーソの倍だぞ、フロステン。指摘が最後になったが、アリオーソは男の子だ。
 アリオーソはひどく困った様子だった。どうにか、など考えてもみなかったようだ。まごまごする様子は初々しい。
「あーあ、あれ、ボスに向けてくれればよかったのになー。そしたら面白かったのに」
「面白いも何も、鼻血で海ができるだけじゃない?」
「や、海は流石に未だないよ? あと噴射もない」
 グレゴリオの鼻血にみんな慣れ過ぎだと思うセッタだった。早くこっちの世界に戻ってきてほしい。そんな日は来ないのかもしれないが。
 さて、スクリーンの向こうでは今度こそ「いい雰囲気」と断言できる様子になっていた。フロステンがアリオーソの頭をいい子いい子、と撫でている。アリオーソはくすぐったげにしている。撫でられて目を細める顔が、猫そのものだった。
「なんでだろう、百合っぽいと思うのは」
「大丈夫セッタくん。君だけじゃないから」
 このままアリオーソが「お姉さま」とか言い出しても不思議はない絵面だった。
『これからセンセ、儀式なんだけど。アリくんも来る?』
「儀式? って?」
 何のこっちゃとカルロとディエゴが首を傾げると、セッタが苦笑する。
「フロス先生、オカルト好きなんだよ」
「へ? あの……言ってみれば科学者でしょ、あの人」
「インテリほどオカルト好きなものなのだよ」
 と、訳知り顔でユリアスが言った。そういえばアリオーソも、宇宙人だのが好きだった。UMAの楽しさはオッカム教授から吹き込まれたようだし、学術系魔導士のインテリは確かにオカルト好きと言えるのかもしれない。
「じゃ、ちょいカメラ移すね」
 ディエゴは中継から、追跡に術式を変更した。
「ボスはイライラしながら自室で課題やってんね」
 そちらの方も追跡してみたらしい。グレゴリオらしいと言うか、何というか。
「ディエゴくん……はさー」
 ソーサリーの人間をどう呼んだものか悩みつつ、カルロは頬杖をつく。
「なんでアリのこと気になんの?」
「面白いから。面白いことが三度の鼻ほじりより好きだから!!」
 アリオーソの奇行は鼻ほじりレベルか。
「あと、リシェルのこととなるとボスが面白いから。あんたらはリシェルの傍にしょっちゅういるから、ヘンなボスの姿ばっか見てんだろうけど、あの人リシェルさえ絡まなければけっこう凄い人よ?」
 確かにグレゴリオの凄い様を目にする機会は少ないが、想像はできる。
 今のこの穏やかで、レイヴン的とすら言えるソーサリーを作ったのは彼なのだ。十五で頭領を継いだため、彼の方針に背いた先輩はかなりいた。おそらく、数十人も。
 しかし、グレゴリオは抗争を起こしてレイヴンの手を借りるような無様は晒さなかった。己の手腕ひとつで、治めたのである。
 レイヴンをシャルル派とカルロ派に分割させてしまったアリオーソより、ボスとしては優れていると言えるだろう。
「あ、移動終了。映すよ」
 再び、黒板に映像が広がった。
 どこかの……部屋である。どこかは分からない。
 壁全体に黒幕を張り、天井からは禍々しい髑髏のランプが無数に下がっている。
 人骨で作られたらしい中央の祭壇? には、立派な生肉が並べられていた。
『キエエエエェー!!』
 ………フロステンである。
 グリグリ眼鏡は外し、原始人のよーな衣装に、恐竜のような頭蓋骨を被って、吼え猛る。
 フロステンに借りたのか、アリオーソも衣装だけは着て……ぶかぶかである。フロステンも大柄ではなく、むしろ華奢なほうだが、アリオーソは一回り以上小柄だ。よく分かってなさそうながら、一生懸命「きえー、きえー」と言っている。
 どうしよう、とセッタは言葉に詰まった。
 フロステンの奇想天外より、隣で「かわええ……」と呟いてつっぷすカルロに引いた。どこかの誰かさんみたいに鼻血を噴いたら絶交してやる。
「同じ人間種族とは思えないな」
 との、ユリアスの発言はもっともだと思う。
 片や、血走った目をひんむかんばかりに見開いて(お願いだから瞬きしてほしい)喉が枯れんばかりに奇声を轟かせるフロステン。怪鳥にそっくりだ。
 片や、ぶかぶかの服で必死にきぃきぃ鳴いているアリオーソ。小動物だ。
『ホンゲァアアー! ホェーエエエエイ!!!』
『やかましいわー!!!」
 グレゴリオが扉を蹴破って乱入。
『図書室の隣で何してやがる!!』
『え、えへ。空いてたからつい』
『馬鹿者!! ここは数日後に廃棄図書庫になるのだ!』
 ひとしきりグレゴリオが叱りつけると、しょげたフロステンの前にアリオーソが立ち塞がった。
『なんだ? 妙な格好しやがって』
『フロス先生に意地悪するな。数日後までに片付ければ文句はないだろう』
 グレゴリオは鼻を鳴らし、馬鹿にしたように哂う。
『フロステンにどうのという話は本当だったのか。貴様、頭おかしいんじゃないか?』
『おれのことはとにかく、フロス先生を馬鹿にするな! 先生のことは……先生のことは………おれが守る!』
 ボっと顔を赤くして、グレゴリオをあまり迫力のない顔で睨む。
 一瞬、グレゴリオは傷ついた顔をしてから、呆れの表情に入った。ディエゴがバンバン机を叩いて大笑いする。本当に彼はボスが大好きらしい。
『何か悪いものでも食ったんじゃないか、貴様』
『ほっ、本当だもん! 先生のこと愛してるんだもん!』
『口調からして、かなりおかしいぞ、貴様』
 ここへ来て、グレゴリオは本当に心配になったらしい。グレゴリオでなくとも心配になる幼児退行っぷりではあるが。
『診せてみろ。多少の解呪や内科はできる』
 セッタは驚いた。グレゴリオが、こんな優しい声を出せるとは知らなかった。ディエゴが言うには、患者にはこんな調子なのだそうだ。
『おれはヘンじゃない!』
『変だ。フロステン、貴様からも何か言ってやれ』
『え……ヘンでもいいじゃない? カワイイし』
 あまりの奇行で生徒に敬遠されるフロステンも、慕われるのはそれなりに嬉しいらしい。
『貴様、惚れ薬でも飲ましたのではなかろうな』
『惚れ薬なんてもの、作りませーん。作り飽きたもーん』
 子供っぽく下唇をつきだす三十路男、ふと首を傾げた。
『あれ、でも……このまえ授業で、惚れ薬つくりましたねえ』
「作ったの、セッタ君」
「知らない」
「知らない、て……」
「だって、学年ごとに作るもん違うし。中等科でアリ先輩に薬盛る勇気のある奴なんか………」
 セッタは口端をひきつらせた。
 いる。錬金術に属する中等科で、一人だけアリオーソを恐れず薬盛る奴が。
「先輩たち、誰でもいいから中等科にいってくれる? オレ、中和剤作ってくるから」
「いいけど、誰つれてくればいいの?」
「アレルセン=ラグーン」
 ああ……と全員脱力した。公子さまの天真爛漫なご尊顔を思い浮かべ、水揚げされたタコのようにぐんにゃり。

 中和剤の完成には数日を要し、その間アリオーソは「あのまま」だった。
 中和剤を飲ませる時には「このまま先生を好きでいる」と大騒ぎし、いざ元に戻ると別の意味で真っ赤になりながら走り去った。
 その後、三日ほど部屋から出て来なかったそうな。



0 件のコメント:

コメントを投稿