【蛍黒にまつわる宇宙の腐界論】
「絶対にあの二人はリバがある」
というのがクラスタの通説だった。
彼らが知るのはメディアに露出する二人の様子と、流出したフォトやムービー。きせかえクロネちゃんと猫耳でじゃれあう菊蛍とクロネちゃんのデータだ。それも今は削除されてしまった。
「そもそも男同士なんだから」
「でもほたるんはクロネちゃんをお姫様みたいにエスコートして守るじゃん! リバはない!」
「ヨシヨシしながらヤラせてやってるって絶対」
「リバ論争は荒れるから禁止ー」
というやりとりが専用トークルームでは日常茶飯事だった。
そこで、今も続いているクロネと志摩王のトークちゃんねるで成人向け枠があったので、一同揃って署名を募り質問を投げた。
すると志摩王(のアバター)は俯くクロネちゃんの隣で大笑いし、
「菊蛍はああ見えてバリタチだ。クロは呼び名どおりネコ。だからリバはないよ」
この発言はリバ派・黒蛍派に大きな波紋を呼んだ。三次元を扱うジャンルの辛さだが、真実が人を追い詰めることもある。
実はもっと衝撃を与えたのが「蛍はバリタチ」という事実。なにしろあの流麗で儚い外見なので姫様か女神のように奉る奇特な人種もいるのだ。
ちなみに彼らの脳内では菊蛍の体型はほっそりしている。流出ムービーを見ればなかなかのイイ肉体をしていることが分かるのだが、そこらへんは脳が補正するらしい。
その点、古くからいる鷹蛍派は冷静だった。
「二人がデキてないの分かっててやってますし」
「蛍さんがクロネちゃん一筋なのは痛いほど伝わりますし」
「むしろ蛍黒も好き」
古参であるがゆえに鷹揚だ。
尤も中には過激なのもいて、噂によればクロネを呪ったせいで惨殺されたとか。
「人を呪わばってやつですね。あっ墓穴は自分の分だけでしたか」
「実在のモデルに手を出すなんて死んで当然」
「もともとヤバイ橋渡ってるのに荒波に身を投げる愚行」
犯人に対して冷ややかだった。
こうしてリバ騒動には一段落ついたが、今度は今度で別の疑問も浮上する。
クロネちゃんが「理想の蛍」と本人に言った中堅サークルは現在、神扱いされている。本人は畏れ多くて辛いとのことだが、同クラスタ内では尊敬のまなざしを向けられていた。
「蛍黒神の絵柄は割と雄めのほたるんですよね…」
「もともとはマニアック向けっていうか、否定的でしたよね。あの手の絵柄は。ほたるんは姫って見解が多かったから」
「クロネちゃんの目にはああ見えてる説」
「いやでも実際、ゴリラだから。服の下めっちゃマッチョ。あと凄く強いらしい、アジャラ皇子一発KO」
「ついでにクロネちゃんも一発KOしちゃいましたよね……」
「しっ、それは言わない約束!!」
菊蛍が洗脳によって記憶を失い、地下組織のリーダーになっていた件は宇宙中が知っている。当時はパニックになったものだ、拉致されたロマの王がなぜか敵組織の首魁として宇宙に登場したのだから。
「クロネちゃん辛かったろうな……」
「挙げ句の果に一発KO」
「それは言わんであげようって」
「クロネちゃん復帰したら今まで以上にべったり」
「噂によると、地下組織時代にクロネちゃん拉致って侍らせてたらしい。記憶ないのに」
「ガチやん」
「知ってた」
このあたりから議論が白熱し、
「そもそも18歳のクロネちゃん保護して囲い込んじゃった訳で」
「姫のすることじゃなかろう」
「そもそも90歳の姫とは」
「姫なんです姫なんですほたるんは誰がどう言おうと姫なんです!」
「見た目だけは反則気味にたおやかで美しいからな……」
「クロネちゃんとメディア映ってるときのウキウキにこにこほたるん見てると年齢わかんなくなるよね」
「年齢も性別も蛍」
「性別蛍は理解できるけど、前から蛍姫って思考にはついてけない。いや好きな人は好きにしていいと思うけどさ」
「言っていい? 言っていい? 実のところほたるんただのスケベ親父」
「禁則事項です!」
「みんな心の底では分かってるから」
「そういえばアジャ若減ってアジャクロ増えたよねー。アジャラ殿下、クロネと結婚するって公言しちゃってるし」
「志摩王はもういいのかよ」
「まさかの展開だったよね……アジャタカクラスタ一時期盛り上がってたのに」
「ロマ若が熱すぎて大移動があったからな」
「蛍黒も熱すぎて鷹蛍から大移動」
「でもクロネちゃん、鷹蛍大好き」
「それ」
「あれどういう心理なんだろう……自分の恋人が別の人間と恋愛してるの読んでるんでしょ。ほたるんに抱っこされながら」
「らしいね。ほたるんもそれ見てご機嫌らしい。クロネちゃんがよければそれでいい思考」
「現実とファンタジーはちゃんと区別できるんじゃない、クロネちゃんは」
「自分が抱かれてる相手が抱かれてる現実と区別……」
「クロネちゃん哲学、複雑骨折してるらしいから。志摩王いわく」
「そういやクラミツ王子と兄弟発覚してから増えたよな、クラクロ。でもそっちは拒否反応だってさ」
「クラミツ王子、志摩王とは受けクラスタ多かったのに、お兄ちゃんと絡むと急に攻め扱い」
「まあもともと声が……てか志摩王が男前すぎて」
「顔は可愛いけどね?」
「増えたと言えば、デオ葛増えたよなー。いいことだ」
「あそこは微笑ましい」
「戦う様は微笑ましくない」
「いや微笑ましいよ。夫婦そろってうっれしそうにひとごろ…やっぱ微笑ましくないわ」
「脳軍ゆえいたしかたなし」
「そういえばタカクロですらあるのに、クロ葛とか葛クロはないよな。あるのかもだけど超ドマイナー」
「あそこはもう妖精だから。妖精さんだからデオルカン皇子以外とのエロはありえない」
「そこいくとクロネちゃんはハイドの件やエロ画像流出の件もあって、第二の腐界ビッチだよな」
「志摩王に続いてな。志摩王は寛容だからってのもあるけど」
「自分の触手出産もの読んで爆笑する精神はさすがだわ」
「クロネちゃんは夢レター被害に遭ったせいで触手×自分はダメらしいよ。ジャンル内でも自粛だって。あとモブおじさんやめてくれって懇願してたな」
「海賊に拉致強姦されたのに海賊×自分を笑い飛ばす志摩王よりは繊細だよね……」
「ほたるんによると、移民船で強姦されかけたのを返り討ちにしたらしいけど」
「志摩王は返り討ちどころかちんこ噛みちぎって回った八歳児だからな……メンタル強すぎだよね」
「ほたるんはそういうメンタル強い子好きなんでしょ。なんで志摩王になびかなかったのかな」
「出会ったのが確か志摩王10歳だから……いやほたるんならクロネちゃんが何歳でも育ったら食ってる。絶対食う」
「あったよね、有名サークルでほたるんがクロネちゃんを育てたらーって話」
「ブームになったなあ、あれ」
「主にショタコンが増えた」
「クロネちゃんは成人してるっちゅーに」
「クロネちゃんにはもともと熱狂的なファンいたけど、ウィッカ王でガチのほうの信奉者増えて新参増えたよね……ブリタニアスラムのさー、バッカニアの人がクロネちゃん本てどういうの見ればいいですかぁーって。なんか業界では有名な女好きらしいんだが」
「そこのバッカニア、揃って買いに来たらしいね」
「バッカニアどころか元海賊らしき人が来るよ。でもお行儀よくしないと仲間やウィッカ統括さんに叱られるから大人しいの」
「それで知り合って結婚した奴知ってるわ」
「そうそう、片方ほたるん信者で片方クロネ信者で」
「ほたるん信者はクロネを尊重してるし、クロネちゃんがほたるん大好きだからクロネ信者もほたるん崇拝してるんだよね。もともとロマの王だったのあの人だし」
「ほたるん、ハイドウィッカーの庇護もしてて実質ウィッカプールの保護者でもあったし。そういう意味ではウィッカ王も元はほたるんだったのかな」
「よくもまああのほたるんの後継げる奴が出たよな。クロネちゃんほんとすごいよ」
「しかもこんな早くね。クロネちゃんが後継ぐにしてもあと数十年後かなと思ってた」
「蛍黒尊い……」
「それな」
今日も熱い議論がトークルームで交わされる。
ただし最後はいつも同じ結論が出る。
[newpage]
【タカラ・シマとクロネのトークちゃんねる】
「お互い王になってもやると思わなかった」
「そもそもお前が王になると思わなかった」
「ほんとそれ」
「どうよ、王様業は」
「俺が聞きたい! 王様って何するの」
「何するのときたか」
「眼の前のやることやってるだけだよ、俺。たぶん本当に必要なことは蛍と鷹鶴がやってる」
「政治のことは優秀な官僚がやるもんだって。あいつらは右大臣に左大臣だろ」
「それなんか違う」
「あいつらだって国やるなんて考えてなかったから、けっこう苦労してるみたいよ。お前には話さないだろうけど」
「話されてない……なんかショックだ」
「みんな暗中模索ってことさ。俺も実はよくわかってない」
「いいのかそれで」
「王子の99%は王にならずに終わるんだぞ。王になる教育もない。俺に至っては王子様の教育すらされてねえ!」
「俺もですよ……短かったなあ王子時代」
「お前はなあ」
「王になって忙しくなった割には、薄い本もトークちゃんねるもやめないな」
「それやめたら俺の人生が死んじゃう。や、婿どのさえいれば死なないか。でもその婿どのとも離れ離れ! 畜生!」
「一年半くらいは一緒にいられたんだよね」
「そう! 戦時中は不幸があった人もいると思うし、俺も辛いことあったけど、それでも婿どのが側にいてくれたから……」
「俺、戦時中結局ほぼ寝て過ごした」
「それな。おかげで本編ほぼ戦中描写すっとばしの憂き目」
「一人称視点の辛いとこ。今だから聞くけど、あのときの蛍どうだった? 俺が暗殺未遂された空白の一年」
「それ聞いちゃう? やー、すごかったよ? 実際決して多くない戦力でジャイアントキリングの嵐。王軍ってなんだかんだ規模でかいから……お前は論外な!」
「艦隊戦せんとて生まれてきたような能力してるから」
「時代が時代なら覇王になってたろうな、クロも菊蛍も」
「本物のヤマトの覇王が何言ってるのか……」
「殆どたなぼた状態だったじゃん、オトツバメが暴れたゆえの」
「それこそ生まれる時代がテラの古代だったら覇王だよね」
「あいつスパルタでもやってける気がするわ。あるいはあれだろ、闘技場の奴隷王」
「皇宙軍仕込みでますます強くなったらしい」
「俺さあ、戦闘のほうはそこそこだから、クロ以下なんだよ。今となっては。だからオトの凄さがわかんない。うみあおーいレベルでしか分からん。懐かしいなあ、クロが俺にどうやって強くなればいいですかって連絡してきたの」
「あの頃はウィッカーとしてどうやってけばいいか分からなかったんで……」
「なんだかんだ親父どのは優秀だよな、腹立つことに」
「俺のトークスキルもここで鍛えられた」
「イオリコのトークルームでえっとうっと言ってた奴とは思えないよなあ」
「ほんと感謝してます。最初はどうしようと思ったけど、ここで鍛えられなかったら王になんかなれなかった」
「えっとうっと言ってる王は確かにな。無理だよな」
「人目に慣れたのもある……これはライブのおかげかな。志摩滞在中の中規模ライブで慣れた。最初注目されんの怖くて、膝抱えて殻に閉じこもった」
「そこまでか」
「タカはいきなり王子って言われて官僚に囲まれた十歳のとき大丈夫だったの」
「やあ、そういう根性だけは据わってたんで。それしかないとも言う」
「ヤマト文化財が何言ってんだ」
「そういえばお前もなにかに指定されるべきだよな。ハイドはS級危険ウィッカーだった」
「俺もそれなんじゃないの」
「ロマはアダムアイルの友好国扱いだから。ウィッカプールとは違う……今はウィッカプールも友好国か。お前が王だし」
「そういう話は聞かない。あと王だけど別に宇宙政府とお話し合いとかしたことない。いつも俺の頭素通り」
「それいかん奴じゃん」
「だろ? でも凄く不利益になることや、許せないことがあったら会議に乗り込む所存。あ、でもアスルイス陛下と話すことはあるよ」
「へえー。宇宙政府内では王はなかなか皇帝陛下に謁見できないんだけどな。逆に宇宙政府の会議にはよく駆り出されるよ」
「宇宙政府はそれでひとつの帝国って扱いだから……帝国の皇帝と独立王国の王だからじゃないかな」
「お前がウィッカ王でなければそこまでの話になってなさそうだけど。あ、政治の話続いてごめんな。今からクロの夜の話でも聞くわ。最近どうよ」
「俺が聞きたいよ。俺は別に変わってない、蛍はべったりだし。今も抱えられながらトークルームに接続してるし」
「いいなー。俺も婿どのとべたべたしてたい。できないけど」
「できないんだ」
「べたべたしてるとどうしたって、しっとりしてくるだろ。婿どのはそれがダメで、割と頻繁に洗浄ポッドに入る。ある程度乾燥してないとダメみたい。だからほんとはセックスも苦手なんだけど、もともとアダムアイルって精力も強いから……」
「ぷつーんと切れた事件は前のトークで聞いたけど」
「あれ、実は三度ほどあったんだけど、そのたびに婿どのすごく落ち込むからさ。凄くかわいい」
「うちも蛍が強要嫌いで、そこ凄く拘る。でもさ、ほんとのところ、蛍いつも余裕なんだよ。だからマグロ卒業したい。でもフェラとか騎乗位とか嫌いみたいで…!」
「かなりぶっちゃけたなお前。騎乗位かーそれは俺もやってみたいわ」
「ないの」
「ない。なんか遠慮があってさ。やっぱ相手皇族だし。てか腕力的に敵わないし」
「言ったら喜ぶと思うよ。てかこれ聞いて喜んでると思う」
「そうかなー。へへ。へへへ」
「えっタカがかわいい。タカは婿どの絡むと可愛いよな」
「婿どのの前では可愛くあるべきと思ってる。そういうお前も菊蛍の前じゃ子猫ちゃんだろ」
「いや、しらね……むしろなんでタカが知ってんの」
「データ流出したから。いやもう、あまえんぼうでちゅねクロネちゃん」
「くっ……みんなだって好きな人にはそうだろ!?」
「それにしてもお前はあまえんぼ……おっと、あんまり指摘すると菊蛍に怒られるな。あいつは慣れなくて拙いお前が好きなんだろ」
「そういう節はあるけど。タカはどうなんだ、婿どのと……」
「婿どのは何しろアダムアイルだから、でかい」
「わか……いやなんでもない」
「だからいつも受け入れるので精一杯。たぶん余計なことしないほうが婿どの的にもいいだろうしな。婿どのも経験豊富じゃないから、二人して精一杯な感じ。でもそれが幸せ」
「なんかいいな、そういうの。俺はべつに不満があるわけじゃないけど、蛍が巧すぎて翻弄される」
「だってそういう人じゃんかさあ。でもセックスに限らなければお前は菊蛍を振り回しまくってんだろ」
「そうかなあ」
「無自覚かよ。見てて不憫になるほどだぞ」
「タカだって婿どの振り回してるだろ!」
「それは自覚あるからいいの」
「自覚あんのか……」
「ところで今なにしてる?」
「蛍に抱えられながら仕事。でもたぶん蛍も仕事してる。いま頬ずりされた」
「くっそ、うらやましい!」
「婿どのとはちゃんと会えてる?」
「一応、繁忙期でなければ週一で会いにきてくれてる。とんぼ帰りだけどな」
「この前諸用で話したとき、本格的にアジャラ皇子に譲るつもりでいるって言ってたよ」
「ほんと? まあでも予定は未定だから俺には話してくれないんだろうな」
「アジャラ皇子、うまく皇軍警察やってらしたけどな。シヴァロマ皇子がいるとやっぱり抑止になるんだよな」
「婿どの復帰ってだけで犯罪率2%下がるらしいからな」
「宇宙規模で2%は大きいよなあ……ロマはクレオディスが取り締まってるけど、ウィッカプールは特に犯罪多くて」
「そりゃそうだろうな、元無法の惑星だし」
「手が足りないしほぼセキュリティで回してる。ほんとはそのセキュリティドローンに回す資材、子供らのごはんにしたいんだけど」
「子供らの安全を守るためだと思えば糧になってるよ。そうだろ」
「そっか……そっかあ。だからさあ、俺はやっぱロマの王っていうより、ウィッカ王なんだよな。殆どそっちで手一杯」
「確かに、お前がウィッカ王で菊蛍がロマ王っていうのがしっくり来るけど。でもそうするとお前はウィッカプールに住むことになるだろ」
「そしたら蛍と離れ離れか。それは……いやだな」
「ん、質問がきたぞ。これは俺も気になってたことだな。クロが鷹蛍本読むのってどういう心理?」
「え、どういうって」
「自分の好きな奴が他の奴に抱かれてる本読むの趣味じゃん」
「えー、タカだってデオロマ読むくせに!」
「デオルカン殿下だからいいんだよ」
「俺も鷹鶴だからってのはあるかな。鷹蛍本の二人は別世界の別人なんだよ。書いてる人には悪いけど、実際とはぜんぜん違う。だからなんだろ、鷹鶴と蛍をモデルにした架空のキャラみたいなかんじ」
「まあな。特に鷹鶴な、みんなが思ってるような奴じゃないからな。
それじゃあお時間もほどほどってことで、このあたりでしーゆー!」